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ぶどうの森・本店
森をつくるものたち②-10月18日はバラ記念日-
2023.11.02
「いい土になってるよ。」
石川県からご紹介いただいた2人の専門家にご助言とお墨付きをいただいた翌日の10月18日、1ヘクタールに広がる「ヤチ」に、最初のバラの苗が植えられました。
この地と私たちの新しいつながりを紡ぐ「ぶどうの森のバラ記念日」です。
耕作放棄地の再生へかける思い
地元で「ヤチ」※と呼ばれるこのエリアは、ぶどうの森・本店周辺の「ラシェット」※に河原市用水を挟んで接する場所にあります。ラシェットから山手に向かって東へ伸びる勾配のある地形で、谷の地(内)であったことからそう呼ばれるようになったのでしょう。
※お皿の農園「ラシェット」エリアに関する記事はこちらから
※岩出町の「ヤチ」エリアに関する記事はこちらから
ここは以前、緑豊かな棚田でした。こんなに狭く傾斜のある土地をも水田に変え、稲に灌水してきた先人たちの必死の努力はいかばかりだったかと感じずにはいられません。
しかし約15年前に高齢化や離農により耕作放棄地となってから、竹林となる以外は鬱蒼(うっそう)と背の高い草が生い茂り、イノシシなどの獣が自由に活動するようになっていました。
父祖たちが心血を注いで整えた水田を維持することはできなくても、豊かな地として次世代につなぎたい。
ラシェットエリア同様に、そんな思いでこの地の再生を決意したのが、今年の春です。
バラが咲き誇る地へと変化させることで土地をつないでいく未来を描きました。
再開墾、地域の支援と地を活かした灌漑
こうして2023年春、久しぶりにヤチにヒトの手が入りました。
私たちが力を借りたのはラシェットづくりでもお世話になった「西川建設」さん。いつもぶどうの森に惜しみない協力をしてくださるご近所の土木工事会社さんです。
彼らの技術と尽力により、雑草と竹林で閉ざされたヤチはわずか1か月のうちに風が通り、山手からラシェットへ続く50mの視界が広がりました。
10年以上にわたって光が入らなかったヤチの土は、水分は多くても酸素が不足して青みがかり、切り拓いた直後には沼地のような湿地帯が広がりました。
しかし、もとの地形と西川建設さんの計らいで設けた左右の傾斜、伐採した竹を利用した灌漑、東から上る太陽が森を抜けて昼前から注いでくれる光のおかげで、土が抱えていた水分も少しずつ抜けていきました。
その後、除草や耕作などを重ねて、半年後の10月にはようやく畑らしくなってきました。
そこでふみきった今回の地植えです。
バラとの出会いと人のつながり
数年前から、レストランぶどうの森 レ・トネルでは、蒸留を始めていました。
きっかけはバジルです。育ちすぎて苦くなったぶどうの森農園のバジルの使い道を模索する中で、試験的に蒸留してみたところ、そこで得られるフレッシュな香りにソムリエが魅了されたのでした。
そして彼は、敬愛するワインのようなバラの香りを抽出したいと考えるようになります。
そんな折、「ジャパン・フラワー・コーポレーション(以下JFC)」さんが富山県の地域おこしの一環としてバラ事業を始めたことを新聞記事から知るのでした。JFCさんは、北陸3県でフラワーショップチェーン「花まつ」、東京で日本初の高級バラ専門店「ローズギャラリー」などを手掛ける企業です。
さっそく話を聞きに行った創業者は、バラに将来性と可能性を感じ、ヤチをバラの里へと再生しようという夢が広がっていきます。その夢に共感したJFCさんからバラの苗をいただくことになりました。
緑豊かな里と地域経済の新しい姿を求めて
この日、植えられたバラの苗は36株。ブルガリアのバラの谷で栽培されているダマスクローズ種のカザンリク種、香りがよいことで知られる品種です。
カザンリクはダマスクローズの中でも原種に近い品種。春から初夏にかけて花を咲かせるために「サマーダマスク」とも呼ばれます。
JFCさんが準備してくださったこの苗が、ぶどうの森に届いたのは5月でした。しかし当時はまだ苗が小さく、このまま地植えするには早いとの判断から鉢植えされてハウス内の夏越しを経て成長し、この日に至ったのでした。
今秋、新たに約500本の苗が納品されますが来春まで鉢に植えかえられて越冬する予定です。
これらが少しずつヤチに根を下ろし、ゆくゆくは緩やかな勾配をなす一帯が約2,000株のバラで彩られる「バラの谷」になることを目指しています。
バラやハーブの蒸留水を使ったオリジナルドリンクは、すでにレストラン「レ・トネル」のスペシャリテになっています。今夏には、この技術を利用した初のクラフトジン「森のジン」※も発売しました。
今は地元の農家さんから分けていただいた花や香木を中心に使用していますが、今後はぶどうの森農園やヤチで栽培されるバラ、農産物を活用していく予定です。
2024年春ラシェットエリア脇には、蒸留施設を備えた新工場の着工も控えており、蒸留水を使ったドリンクをぶどうの森の基幹事業のひとつに育てたいと考えています。
※ぶどうの森のクラフトジン「森のジン(アルコール/ノンアルコール)」のご案内はこちらから
森を作ること、共生すること。
小さなバラたちが根を下ろした穏やかな秋の日、ヤチでもうひとつの光景を見つけました。
切り拓かれた区画の北の端、生い茂る木々の陰となり終日光が入らない湿った静かな場所、そのちょうど森の境界に1本の栗の木があります。
その栗の木は今年もたくさんの立派な実をつけましたが、あたりに見えたのは散乱する刺だらけの「イガ」だけで、栗の実は獣たちにキレイに食べられていました。まるで「ここは自分たちの場所でもあるよ」と言うように。
これまではヒトの領域だった場所にヒトの手が入らなくなり、獣たちが少しずつ歩みを寄せてきた事実があります。それはいたって自然なことです。
山や森、土地や自然はヒトだけのものではありません。謙虚であること、時間と空間を共有する他者に敬意を払うこと、自然からいただくものに感謝し、その価値を最大限にしていくということが人間の営みであると感じずにはいられません。
10月18日は、ぶどうの森のバラ記念日です。
ぶどうの木がぶどうの森になったこと、森をつくるとは何かということ。
この日に根を下ろした36株の小さなバラたちとともにそれを心に刻み、ぶどうの森は活動を続けていきます。